「ずいぶん前から右の股関節痛が続いているんです」と話し始めた60代のWさんの声には、
なんとなく力がありませんでした。
「特に歩き始めると体の前側で右足の付け根付近に痛みを強く感じます。
一度整形外科でレントゲンを撮ってもらったほうが良いのかなとも考えていました」。
「とにかく痛みを起こしている箇所を中心にその周囲を解してみましょう」。
私はWさんにそうお伝えし、まずは股関節を動かす際に重要な筋肉が存在している
右の臀部からマッサージを開始しました。
少しするとお尻の硬さが取れたため、次にWさんが最も辛いとおっしゃったいわゆる
鼠径部へのマッサージに取りかかりながら私は、「足自体は痛く無いのですか?」と尋ねました。
「はい」とのWさんからの返事を受けながらも、「もしかしたら」と触ってみると、
思っていたとおり、太股の内側・前側そして外側の筋肉がそれぞれ広範囲に渡り
かなり硬くなっているのが分かったので、そのまま足へとマッサージを進めました。
「押されると痛いのは凝っている証拠なんですね。痛みの原因が骨にあるのか
筋肉にあるのか分からないくらいの辛さでしたが、何といっても今までこういう所も
凝るということ自体に気付かなかったし、ましてやこういう所をマッサージしてもらう
という行為も今日のように治療を受けるまで思い付きませんでした。
なんだか揉んでもらっているうちに少しずつ押された所の痛みも減ってきた気がします。
改めて考えると、まずはこのように硬くなった筋肉を解してもらい、
それでもまだ痛みが取れないようであればその段階で整形外科に行ってもいいのかもしれない
という気になってきました」。
そう話すWさんの声は、いつしか明るくなっていました。
「ヨガのレッスン中、最近は両方の足の裏をくっつけて両膝を外側に曲げよう
としても、右の股関節だけ硬くて開けなかったんです。
しかも、右の足首が硬いせいなのか足の裏通しもうまくぴたっと合わせられないんですよ」。
そうお聞きした頃には太股も大分柔らかくなっていたので、続けて膝下へのマッサージに入りました。
足首に繋がっている脛の部分の筋肉が筋状に硬くなっていたので、そこを解しました。
右足全体へのマッサージを終えると、「なんだか右足が来た時より延びた感じがするし、
足首の硬さも取れた気がします」と、Wさんはすっきりした様子で帰っていきました。
鼠径部も柔らかくなったためか、股関節の痛みも減ったようでした。
確かに、加齢などにより股関節自体に変形がみられる場合には、
マッサージや鍼治療だけでは痛みを完全に取りきることはできません。
しかし、これだけは頭の片隅に止めておいていただきたいのです。
どのような部であっても、痛みの原因が「筋肉の凝り」である場合が少なく無いこと。
そして、その固さをマッサージや鍼によって取り除くことで症状が改善される可能性があるということです。
体が凝るのは、なにも肩や腰に限ったことではないのです。